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Vol.118.深夜のお百度参り

公開日 2020年11月

~温かみのあった隣組~

 私の住んでいる松茂と徳島市川内町加賀須野の間には、いわゆる開閉橋が架かっていた。道幅が狭くて危険であったが、少し上流に、広い道幅、さらに歩道が付いた昇降橋に架け替えられた。松茂からこの橋を渡ればすぐのところに事代主神社があり、散歩の目的地には絶好の場所である。

 昭和20年代の後半くらいだからずいぶん昔の話だ。母が夜の10時ころ出かけた。当時、10軒ほどの職員宿舎に住んでいた。その中の一人の奥さんが病気になり、入院し、更に病状は良くないらしいということだ。いわゆる、お百度参りに宿舎の女性たちは、それも深夜では、ちょっと不安だということで、ほどほどの時刻に出かけたのだった。7人から8人でお百度石と本殿の間を繰り返し、一人当たり14~15回も参れば100回になる勘定である。

 女性が一人では、100日は無論無理。深夜の100回の繰り返しも大変な時間がかかる。一人ではなく、数人なら深夜も怖くなく、回数も少なくても済むのだった。お百度参りの仕方の様式に当てはまっているのか否かはわからないが、隣組の知恵だ。病気が快復したのかどうかの記憶はない。同じ宿舎であっても、夫の職種は異なっていたし、地位もかなりの違いがあった。どのような方がリードしたかは知らないが、よそ者の集まりではあったが、温もりのある時代であった。

 事代主神社に入るとすぐ右にお百度石がある。大きい石にはくっきりと百度石の字が読める。横に支えるようにある石にも百度石の字がちょっと見難いのであるが読み取れる。更に小さい石があるのだが、元は百度石であったのではないかと思うが読めない。建て替えや修理の度にいろいろと変遷があったことがうかがえる。歴史を刻んだお百度石はしっかりと地に足をつけている。
(写真は徳島市の加賀須野にある事代主神社の百度石)

徳島広域消費者協会 顧問 三原茂雄