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vol.161.ブランコは人生を表現する遊び

公開日 2024年06月

~揺れているときがブランコの醍醐味~

 雨上がりに近所を歩いていた。団地の公園のブランコが目に留まり一瞬不思議なものを見たように思った。いつも見ている見慣れた風景であるがこの日は違った。不確かな記憶では自治会が40年ほど前に町に公園設置の要求をした。案が示されて設置されたブランコは西の端の境界に沿って鉄棒があり、それに並んでブランコがあった。ブランコの揺れは東西に揺れるものであった記憶なのだ。

 目の前のブランコは公園の北の端に位置して揺れは南北に揺れる。面白いので近くを歩いてみた。徳島市の神社、松茂の富士スレート横の二か所の公園、北島町の保育園西の公園などは多くが南北に揺れる仕様である。ところが北島町の東の端にある公園は東西に揺れ、国交省国道・松茂の事務所近くは南東から北西に揺れるものである。隣町の鍋川団地の公園のブランコはあったはずだが、なくなっていた。設置の規則性は見つからない。

 ブランコと言えば黒沢明監督の「生きる」を思い出す。志村喬演じる市役所の課長が努力して完成させた公園でブランコに揺られながら「いのち短し恋せよ乙女(元歌は少女らしい)・・・」と「ゴンドラの唄」を口遊(くちずさ)む場面が有名である。思いに耽る場面はロダンの考える人のような姿が、適しているようでもあるが、ゆっくり、ゆらり、ゆらり、と揺れると絵になる。

 同じブランコでも中高生の若者のデートの場面もブランコは良い設定である。ブランコに並んで乗った二人が「あのさー」「なに・・」と二人の会話は前に揺れる人、後ろに揺れる人で話が通じたか、通じなかったか、分からぬままで次の場面へと続いていく。青春の一場面が私も欲しかったが、そんなことは夢の夢で終わった。揺れることで出会いがあったり、離れたり、ブランコはそれを表現するものでもある。

 団地のブランコは鉄棒の腐食に伴い撤去された。そのときに遊具の設置が一部変更されたのでブランコの向きが変わった。それは相当前のことである。記憶が消えたり、思い出したり、老化の一歩であるがなかなか自認するには難しく、お医者にかかるまでは当分このままである。
(写真のブランコは松茂町リバーサイド自治会の公園・南東から北西に揺れる)
             

元しらさぎ消費者協会会長 三原茂雄