公開日 2024年09月

~安いから売れるのではない~
若いころ職場の就職課に籍を置いていた。卒業生がその春にお世話になった会社を訪問するし、無事に仕事ができているか確かめることと、来春卒業予定者の採用のお願いである。若い私のような者にも、人事課長や支店長クラスの人が会ってくれる。一学期の中間テストのころである。
数年続けて通うと就職担当の人とも気安くなる。世間話で「大手メーカーで値段は違うが、お宅の会社と同じような製品がある。あれはどうなのですか。」と聞いた。「販売ルートが違っているだけで当社が製造した同じものです、よく読んでもらうと理解できますよ。」と簡単に答えてくれたのに驚いた。
同じようなことがあったのは、消費者協会である工場を見学した時だ。生産ラインに生協と思われる製品が置いてある。「二種類も作れば大変ですね。」と質問すると、「ラインを止めて洗浄して異なるものはできません。」とのことであった。大量生産と個別の要望の下で微妙な違いを同じ生産ラインでは出来ないのである。商品名や値段は異なるが、製造者が同じで同じ内容の製品が店頭に並んでいるということはよくあることのようである。
同じ商品でも売値が異なってくる理由は複雑である。大量生産だから安いと思われるが、大手メーカーでも、製造される商品のいくばくかは下請けに任せている。その小さな会社が、A社に出荷したもの、B社に出荷したものが同じ値段で小売り値になるとは限らない。流通費の違い、またテレビや新聞での宣伝、広告俳優の出演料などの広告費の経費などがあり消費者が購入する値段である。
よい例えではないが、球団に5億円の選手がいる。その選手がいなければ年間100万人の入場者・観客の数で割ると500なので、入場料を500円下げられる勘定である。では球団は入場料を下げるのと、選手の年俸を上げるのと、どちらを選ぶか。簡単である選手の年俸が高くても観客の増えることを望むのである。安く野球を楽しめることは選ばない。
消費者が求めていることをそのまま受け入れても商売にはならないし、経済的合理性で消費者が動いているとも限らない。また聞きであるが、労組か何かが、有名タレントを使わず社員を使ってはどうですか、と問題提起をした。しかし結果は、素人の社員では商品が売れなかったらしい。高い出演料のタレントを商品イメージに使うことが、商品が売れて結果として社員の給与を上げることになるのである。
元しらさぎ消費者協会会長 三原茂雄