公開日 2024年10月

~春と秋の彼岸に近い社日の行事~
二年くらい前のこととなると思う。台風が過ぎたと言うのに霧雨であった。散歩は出来ると傘をさして出かけた。川の向こうの事代主神社までがお決まりの道筋である。橋を渡り切るとドーン、ドーン、ドドドーンと太鼓の音が聞こえてきた。
秋彼岸の前日であり、社日(彼岸に一番近い戌の日)。神社には数人の人が集まっている。天気がよければ五角柱(地神の拠り所)の前での行事であるが、雨のため神社の社の中での神事の最中で、参加者はみな年齢を重ねた人ばかりだ。
徳島で育ちながら地神の事を知らず育った。多くの神社に変な五角柱のお墓が建っていると思っていた。資料館の社会人講座で地神を知った。その後、隣の傍示の神社まで足を延ばしたとき、地神をお参りしている人に出会った。
「おじじん(地神)さんは農家の守り神でよ」と言って五角柱のそれぞれの面の埴安媛命、倉稲魂命、天照大神、大己貴神、大己貴神の五つの神の名前の前をぐるぐる回ってお参りしていた。いくばくかのお米を丁寧に祀っていたのだ。
戦後にはいろいろな行事が残っており、多くはお供え物のお下がりが子供たちの楽しみであった。豊かになるとともに非日常的な日のお下がりが魅力のないものになり、物の豊かさと引き換えに心の豊かさを失ってきた。
小さな神社の氏子たちは、山の神の祭典を終え、お地神さんを終えると、いわゆる稲妻封じの天神祭である。集落の人は四季折々に行事をこなし、自然の神々に感謝の集会をしている。残ってほしい風物詩を見たのだ。
昨今、三好市祖谷地方の神代踊りが世界遺産になった。香川県の念仏踊りがルーツらしく管原道真との兼ね合いもある。さらに平家伝説が重なれば観光資源にもなる可能性が膨らむ。とは言いつつ、お地神さんのような地域の人と繋がった伝統・儀式・風習は捨てがたい味わいがある。
(カットは徳島市加賀須野の事代主神社の境内の地神)
元しらさぎ消費者協会会長 三原茂雄